研究紹介

食感を科学する:新たな食感解析AI「Gel Biter」

私たちが食べ物を楽しむ際、その美味しさは味だけでなく、香りや色、形、そして歯ごたえや舌触りといった食感に大きく依存しています。特に、食感は食品の品質判断において欠かせない要素とされています。しかし、食感を正確に評価することは難しく、従来の評価方法には限界がありました。

そこで、私たちは「Gel Biter」という新しい食感解析AIとそのための咀嚼装置を開発しました。この技術は、物理リザバー計算という新しい技術を応用し、食感の微細な違いを高精度に識別することを可能にしています。物理リザバー計算とは、複雑な時系列データを高精度に処理するための技術で、機械学習の一種です。これを利用することで、従来の計算負荷を大幅に軽減しながら高精度な情報処理が可能になります。

「Gel Biter」は、人間の歯や舌を模した硬い接触子と柔らかい接触子を持ち、これらの内部に圧電センサーを埋め込んでいます。このセンサーは、食べ物との接触時に生じる力を感知し、複数の非線形応答に変換します。具体的には、食品を咀嚼する際に得られる接触情報を、硬い材料と柔らかい材料を通じて感知し、そのデータを統合して解析します。このアプローチにより、食品の微細なテクスチャーの違いを高精度に識別することができます。

さらに、「Gel Biter」は、咀嚼速度や口腔構造の形状など、個人差のある要素を考慮した評価も可能です。これにより、人間の感覚に近いフィードバックを得ることができ、より正確な食感の評価が期待できます。今回の研究では、異なる咀嚼速度や歯の形状を変化させた条件下での評価を行い、「Gel Biter」が高い識別精度を維持できることを確認しました。

このAI技術の開発により、食品業界では新たな美味しさの創出や、既存食品との比較が容易になります。また、消費者に対しても直感的で明瞭な食感評価を提供できるようになります。今後の展望として、「Gel Biter」をさらに改良し、人間の感覚により近い評価を実現するための研究を続けていきます。

YearNameTitleConference
2021廣瀬航佑, 渡邉洋輔, 小川純, エムディナヒンイスラムシブリ, アジットコースラ, 川上勝, 古川英光複数の高分子材料を組み合わせた触覚認知モデルConference on 4D and Functional Fabrication 2021
2022廣瀬航佑, 渡邉洋輔, 小川純, エムディナヒンイスラムシブリ, アジットコースラ, 川上勝, 古川英光多種の高分子材料を取り合わせた触覚認知用人工口モデルの開発日本機械学会東北学生会2022
2022廣瀬航佑, 小川純, 渡邉洋輔, 川上勝, MD Nahin Islam SHIBLEE, 古川英光高分子材料のエンドエフェクタによる食感識別第71回高分子討論会
2022廣瀬航佑, 小川純, 渡邉洋輔, 川上勝, MD Nahin, Islam SHIBLEE, 古川英光Texture identification by end-effectors in polymer materialsThe 10th International Conference on Smart Systems Engineering 2022
2022Kosuke Hirose, Ikuma Sudo, Jun Ogawa, Yosuke Watanabe, MD Nahin, Islam Shiblee, Ajit Khosla, Masaru Kawakami, Hidemitsu FurukawaComposed Soft Matter Learning of Subtle Texture Identification of Food products in Artificial MouthThe 27th International Symposium on Artificial Life and Robotics 
2023Kosuke Hirose, Jun Ogawa, Yosuke Watanabe, MD Nahin, Islam Shiblee, Masaru Kawakami, Hidemitsu FurukawaDoes the mechanical mouth create an illusion of food texture perception due to differences in mastication?The 28th International Symposium on Artificial Life and Robotics 
2023廣瀬 航佑, 小川 純, 渡邉 洋輔, シブリ・ナヒン・イスラム, 川上勝, 古川 英光非破壊触感識別のための物理リザバー計算による圧電感知型エンドエフェクタ第28回ロボティクスシンポジア
2023鈴木悠人, 廣瀬航佑, MD Nahin, Islam Shiblee, 渡邉洋輔, 小川純, 古川英光ソフトマターを媒体とする圧電センシングに基づく麺のコシ特性の識別装置の開発第41回日本ロボット学会学術講演会
2023Kosuke Hirose, Jun Ogawa, Yosuke Watanabe, MD Nahin Islam Shiblee, Hidemitsu FurukawaSoft Robotic Mastication System inducing Misperception of Food Texture during Human Oral Processing IEEE International Conference on Systems, Man, and Cybernetics (SMC) 2023
2023鈴木悠人, 小川純, 渡邉洋輔, エムディナヒンイスラムシブリ, 古川英光食感思考型3Dフードデザイン-咀嚼ロボは音をどう調理するか?Conference on 4D and Functional Fabrication 2023
2024Yuto Suzuki, Koki Fujiwara, Jun Ogawa, Yosuke Watanabe, MD Nahin, Islam Shiblee, Hidemitsu FurukawaChewiness Evaluation System for 3D-Printed Noodles Using the Implantable Gel BiterThe 2024 16th IEEE/SICE International Symposium on System Integration 
2024鈴木悠人, 小川純, 古川英光口腔模倣型圧電センシング装置「Implantable Gel Biter」を用いた 物理リザバー計算に基づく 3D プリント麺の食感評価第23回複雑系マイクロシンポジウム
2024鈴木悠人, 小川純, 那須広紹, 二瓶謙吉, 三澤秀則, 中村昇太, 古川英光食のマンネリズム解消に向けた介護食のための食感解析AIシステム日本食品工学会第25回(2024年度)年次大会
2024Rikuto Kawakami, Yorito Igeta, Hidemitsu Furukawa, Moe Kakegawa, Yuto Suzuki, Gianluca Inagawa, Jun OgawaPhysical Reservoir Computing for Interactive Estimation of Weight from Food Texture in 3D-Printed Soft Matter in Picking OperationsThe 27th International Conference on Information Fusion (FUSION 2024)
2022Kosuke Hirose, Ikuma Sudo, Jun Ogawa, Yosuke Watanabe, M. D. Nahin, Islam Shiblee, Ajit Khosla, Masaru Kawakami, Hidemitsu FurukawaGel Biter: food texture discriminator based on physical reservoirJournal of Artificial Life and Robotics 
2023Kosuke Hirose, Jun Ogawa, Yosuke Watanabe, M. D. Nahin, Islam Shiblee, Masaru Kawakami, Hidemitsu FurukawaDoes the Gel Biter create an illusion of food texture perception due to differences in mastication speed ?Journal of Artificial Life and Robotics 
2024廣瀬 航佑, 小川 純, 渡邉 洋輔, エムディナヒンイスラム シブリ, 川上 勝, 古川 英光多種材料の統合に基づく物理リザバー計算を搭載した圧電感知型エンドエフェクタによる非破壊触感識別日本ロボット学会誌