
研究紹介
香りを科学する:レトロネーザルアロマAI
従来の計算負荷を大幅に軽減しながら高精度な情報処理が可能になります。レトロネーザルアロマAIは、食事中に口腔から鼻腔へ揮発性化合物が移動する「レトロネーザル香(口内香)」の可視化・定量化を目的とした、咀嚼―呼吸連動型の人工口腔・鼻腔システムです。従来、個人差が大きく定量的評価が困難であった香りの知覚過程を、機械的な咀嚼運動と人工気道の協調動作により標準化し、香気センシングを実現します。再現性の高い味香設計や食品開発、摂食支援システムへの応用が期待されます。
企業様との共同研究の充実と成果の実現へ。

レトロネーザルアロマAIは、ヒトの咀嚼に伴って口腔から鼻腔へと運ばれる香気(いわゆるレトロネーザル香)の動態を、人工的に再現・計測する装置です。このシステムでは、3Dプリンタで製作した人工歯を用いた咀嚼機構と、医療用シリコーンを用いた鼻腔モデルとを組み合わせることで、咀嚼時に発生する揮発性化合物の流れを模擬しています。装置は、Arduinoを用いた制御により、咀嚼運動と吸気動作を同期させ、実際の食事中に起こる香気輸送を模倣します。さらに、鼻腔モデル内には超小型ガスセンサ(TGS8100)を組み込むことで、時間経過に伴う香気濃度の変化をリアルタイムで捉えることができます。これにより、食材ごとの香りの立ち方や咀嚼による香気放出の差異を、機械的・定量的に評価することが可能となりました。
本装置の有効性を検証するため、2種類の実験を実施しました。ひとつは香料濃度の違いを識別する実験で、もうひとつは香りの種類を分類する実験です。前者では、バニラ香料を異なる濃度で添加した5種類のグミサンプルを用い、咀嚼と吸引の動作に連動して放出された香気を検出しました。その結果、最大で80%の識別精度が得られ、装置が香りの強弱に対して十分な応答を示すことが確認されました。後者では、いちご・レモン・メロンのフレーバー付きグミと、無香料グミを用いて香りの種類を識別したところ、平均識別精度は84.5%に達し、特に無香料のサンプルについては100%の精度での識別が可能でした。これにより、レトロネーザルアロマAIが香気の有無のみならず、その種類に対しても高い識別能力を有することが示されました。
本技術により、香りの違いを機械的に可視化できるため、食品の新たな“美味しさ”の設計や製品比較が容易になります。今後は人の感覚に近い香気評価を目指し、「Gel Biter」など他の装置との連携も進めてまいります。
共用・共同研究に関心のある方はぜひご相談ください。
Year | Name | Title | Conference |
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2025 | )鈴木悠人、小川純、古川英光 | 鼻腔を伴う咀嚼装置によるレトロネーザルアロマの識別法 | Jロボティクス・メカトロニクス講演会2025 |